糸 ~ボランティアデビューから8年
8年前の冬、福井県沖で、ロシア船籍のタンカー「ナホトカ」号が破断・沈没し、大量の重油が流出する事故が起きた。三国町沖を中心に海岸はヘドロのような油にまみれた。その後、地元周辺の住民や遠くのボランティアがかけつけ、その重油を手作業でとっていく人海戦術がとられた。
私は当時、専門学校の学生だった。ふとみたスポーツ新聞に市民団体がよびかけているボランティア募集の記事をみつけた。短期のバイトが終わっていたので、バスで行く2泊3日のボランティアを申し込んだ。費用は1万円だったと思う。長靴を買い、近所の洋品店で雨ガッパの上下を生まれて初めて値切り、準備した。都内の駅に集まって、随時バスに乗って、悪天の福井へ向かった。
初日は悪天候のため、作業は中止となり、どうしてここに来たのかという交流会をもって、いろいろな世代の話を聞くことができた。2日目になんとかできた作業は、岩のりを取り出すような細かいものだった。時期もやや遅かったので、漂着した重油の大半はすでに多くの協力のもとに除去されていた。私は両手で1・2回すくえるくらいの量をかき集めた。
青年の家のようなセンターに泊まった中で、人のぬくもりを感じることができた。地元の人の歓迎に涙が流れたし、いっしょの部屋で過ごした人たちは善意のおしつけをしない、謙虚な人たちばかりで。ボランティアの中での道具の貸し借り・助け合いも随所にあった。みんな、何かの役に立ちたい、そんなまっすぐな気持ちにあふれていた。
私は、市民団体・ボランティア団体に対して、それまで嫌なイメージを持っていた。やっている私たちは善だから、誘って断るのは善ではない、というような善意のおしつけを感じてきたから。そういう人や組織もあるのだが、人のあたたかさを大事にしている人と組織があることを知った。厳冬の1月の福井で、ほんとのあたたかさにふれることができたように思う。両手に1回か2回の量しか実際の役には立っていなくても、大きなものを持って帰ることができた。
新潟県中越地震が起きているが、今の私は何もできないでいる。少しのお金を出すことくらいしかできない。忙しさを理由にする大人にならないことが学生時代の目標のひとつだったのに。福井でのボランティアデビューから8年が経とうとする中で、私は社会の冷たいギスギス感に陥ることが多くなっている。
今月、Bank Bandというバンドが「沿志奏逢」(そうし・そうあい )というアルバムを発売し、ミスチルの桜井和寿さんが中島みゆきさんの「糸」をカバーした。人と人のつながりの希薄さと大切さ、いのちの尊さが「震災」によって浮き彫りになるなかで、この歌詞とメロディーに想いがあふれてくる。
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震度4!! 久しぶりにグラッときましたね。
新潟県中越地震の映像はこれから寒くなる中、大変だろうなと思う。
しかし、本当に自分で何をするでもなくやはり、第三者的になっている自分がいる。
自分にはチラッと見た新聞の記事に反応していく行動力はない。誰かに後押しされ続けている。
これからも投げかけられるのを待っているだろう。
しかし、少しは意識を持って行動しなくてはいけない。
身近な事から自分の出来る事を探っていきたい。
投稿: MACHI | 2004.10.28 07:07
MACHIさん、コメントありがとう。かみあってるのかどうか不安ななか、コメントがつくとうれしいです。
学生時代はビンボーでしたが、時間は何とかつくれました。募集があるということは必要とされているということ。学生のみなさんはぜひ行ってほしいなぁと思います。臆病な私でさえ、迷いに迷って、ためらいつつも行ったわけですから。
自衛隊のみなさんは大変だと思いますが、年間5兆円をかけているわけで、本来の役割・「自衛」という任務を果たしてほしいと思います。
震災でいのちの尊さが問われていますが、海外で食糧難に苦しむ数億人の人たちが日々生き抜こうとしている一方で、30兆円以上を軍事費につっこむ世界一の国とそれを懸命に支える国がある。やっぱり矛盾が大きいなぁと感じます。
投稿: tamy | 2004.10.29 00:46