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2005.01.15

奈良の小一女児誘拐殺人事件が新聞と読者に問うものは

 奈良市の小一女児誘拐殺人事件が起きたのは昨年11月17日。元毎日新聞販売店員・小林薫容疑者が逮捕されたのは1ヶ月半後の12月30日。家族や学校関係者のやるせなさは察するにあまりあるが、この事件は新聞社を含む新聞販売関係者にまともな良識があれば、起きなかったともいえる。昨日から今日にかけての報道を踏まえ、問題にふれておきたい。

 新聞販売所を転々としていた小林容疑者は昨年1月から大阪市内の毎日新聞販売所に勤務。4月から5月にかけて購読料を着服して23万円を持ち逃げしている。この販売所の所長は被害届を提出。しかし、この所長は小林容疑者が7月から奈良市の毎日新聞販売所に勤務していることを、9月の段階で知りながら、着服事件を調べる警察の「ほかの販売所に勤務していないか照会してほしい」という依頼に応えず、所在についても「知らない」と虚偽の答えをしていた。着服金の返済として、10月から12月下旬にかけて4回各3万円ずつ所長の口座に振り込ませていた。警察は4月25日の着服分6万5千円について、事件と同日の11月17日に逮捕状をとった。所長は「返済が滞るのを恐れるあまり、通報できなかった」と話しているという。

 同じ新聞の販売所、しかも地域も近畿圏とせまい範囲での入退職で、販売所へうつるまでの期間もたった2ヶ月。販売所内の従業員のトラブルを隠し、ブラックリストへの掲載・回覧もなく、同系列の販売所に勤務していることを知りながら、着服金を返済させていた罪は重い。同時に、これは新聞販売の業界全体の問題でもある。

 私は大学を中退するまでの2年間(10年前)、学費の保障を受ける新聞奨学生(新聞販売店に勤め、学費の給付を奨学金として受ける)の経験がある。私の知る範囲でも、周辺の販売所で集金の持ち逃げが起きたことを何度か聞いたことがある。経歴不詳のわけありの人がやり直せるきっかけをつくれる職場でもあるが、従業員の出入りは本当に早く、初めて勤務した人の多くはすぐにやめていく、経験のある人はやはり新聞販売所を転々としているというのが実態だった。

 従業員とは別に、新聞拡張団をつかって増紙のために集中的に勧誘をさせることもよくあった。最近は身分証を提示するようになったようだが、当時はそれもされず、身ぎれいではない服装で自転車にたくさんの洗剤を積み、洗剤の量と強引さで契約をとってくるのが普通だった。時期にもよるが、3ヵ月の新規契約で3000円とか、半年で5000円、1年ではその上の報酬が謝礼として支払われた。ビール券や野球の観戦チケットもよく使われた。契約があと1つとれればさらに報酬が増えるなどという時は、拡張員が自分で1ヶ月分を払い、あとの2ヶ月は購読者が支払うという、信じられない「契約」もあった。

 私は、新聞をまったく読んでいない勧誘員が新聞の勧誘をしているということが理解できなかった。また、拡張団に所属する多くの人とすれ違っても、あいさつが返ってくることもほとんどなかった。実際に販売所に勤務している従業員の多くはがんばっているが、マナーも研修もない拡張団にはあきれることが多かった。商品がどのようなものかを知らない(新聞に何が書かれているかも知らない)勧誘でほとんどの契約が成立するということは、他のサービス業ではありえないはず。

 集金や盗難などのトラブルを徹底的に告発し、同系列の新聞販売店だけでなく、業界としてルールを確立し、共有していく必要がある。新聞の購読者が不況と活字離れで減っているなか、新聞社からの販売店に対するプレッシャーも厳しくなっているはず。持ち逃げがあった場合の着服金はだれがどう補填をするのかなども含めて、問われるべきだ。

 小林容疑者のマンションからは約百枚の女性用下着が押収されたという。その大半が、小中学生の女児が身につけるタイプで、体操服もあったとされている。朝刊配達中に盗んだものと思われる。大阪市内の所長だけでなく業界にまともな感覚があれば、新聞社が紙面でかざすような良識があれば、このような下着の窃盗も起きなかったかもしれない。7歳のいのちが奪われることも。

 大手の各新聞の販売所を転々としていた容疑者の逮捕に、問われているのは新聞社の社会的責任だ。販売所にかかわる改革をどうしていくのか、現状はどうなのか、紙面で連載できない新聞は購読するべきでないと思う。洗剤の量で新聞の契約を決める「潜在意識」の改革も含めて、同時に問われているは私たち読者の良識でもあると思う。

 私は2年間、高級住宅の地域を配達・集金したが、人がうらやむような人気女優の自宅で本人に何度も対面した。新聞業界が信頼を失えば、読者の警戒感は広がり、地域社会の雰囲気も崩れていく。新聞配達は毎日、生活のすぐそばでされていること。社会的責任と比べて、業界の自助努力が浅すぎることは確かだ。安心して読者・住民が新聞を購読できるように、本気の業界改革を紙面改革以上に求めたい。

 私に配達をしてくれている販売所は、販売所のスタッフの顔や趣味、メッセージなどを適宜ニュースにし、折込広告に入れている。また、ホームページでも公開している。顔の見えるやりとりは、販売所にもスタッフにも読者にもいいことだ。

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コメント

お初です。TBありがとうございました。
本当に、むかむかする事件ですね。
重くても死刑しかない現状では、せめて公開処刑にして欲しい!というのは野蛮でしょうか?

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