戦争を私たちに問う 映画「Little Birds‐イラク 戦火の家族たち-」
日本のテレビ局や新聞社には、イラク戦争を市民の側の戦場で体験したジャーナリストはいない。開戦直前にいっせいに撤退したのだ。3月に開戦前のバグダッドに入り、その後もイラクにとどまり、カメラと自分の目で耳で取材を続けた数少ないジャーナリスト・綿井健陽(わたいたけはる)。ニュースステーションやNEWS23などの戦争報道は彼からの中継映像によって「成立」していたと言っても過言ではない。
彼は「戦場」で撮った120時間もの映像から、102分の映画をつくった。初の監督作品だ。映画「Little Birds‐イラク 戦火の家族たち-」を公開初日の4月23日1回目の放映で観た。
イラク戦争では、米軍の部隊の一員となり、戦車の陰からカメラを回す従軍カメラマンの映像が目立った。しかし、「戦場」とは、戦車や戦闘機が視界にある場合だけではない。ミサイルや銃を撃つ側がいれば、当然撃たれた側も存在する。銃口どころか戦闘機さえ見えないなかで犠牲になる市民も少なくない。この映画は、ごく普通に暮らしているイラクの人々、市民の生活が「戦場」であることを映し出す。
日本は戦後60年を迎えた。まわりに戦争を知る人はごく少数になった。核家族化がすすみ、世代をこえて会話をすることさえなくなってきている。イラクは違う。いのちを奪う戦争という陰が、暮らしの中に見えてくる。そのなかでも市民は必死に生きているのだ。
さまざまな疑問が、綿井のカメラに、私たち観客に向かう。日本とイラクはいい関係だったのに、なぜ変わってしまったのか。ヒロシマ、ナガサキから立ち上がった日本がブッシュをなぜ支持するのか。このような問いが戦争報道という形でブラウン管を通して私たちへ向かってきたことがあっただろうか。
それだけにとどまらない。数百の小型爆弾を包み込んで放たれたクラスター爆弾の破片を右目に受け、視力の低下と痛みに苦しむ少女は、「戦争は終わったと大人は言うけど、私にとっての戦争は終わっていません」と、私たちに問うのだ。とても綺麗な瞳に戦争の傷を刻まれた少女の顔は、笑いきれない。その表情が痛い。3人の子を失った親、腕を奪われた子、その親。あたりまえにあるはずの家族愛は大きな傷を負う。学校で学ぶ姿、家で遊ぶ姿、ごく普通にある生活に、戦争の傷跡が刻まれている。
バグダッド陥落直後、戦車とともにあらわれた米兵に綿井はカメラを手に迫る。「子供や市民たちを、もうこれ以上殺さないでくれ」と。また、別の場面でも米兵に「大量破壊兵器はどこにあるんだ」「この戦争の意味は何だ」と聞く。彼らの表情は明らかに揺らぐ。
戦後60年といわれるが、今回のイラク戦争に資金面でもまたその後の自衛隊派遣という役割でも、この国は「参戦」した。開戦後に真っ先に支持したことも歴史に刻まれた事実だ。この是非を言うつもりはない。ただ、憲法改正の動きが強まるなか、イラク戦争とはいったい何だったのかを問うことなく、60年前の戦争やその後制定された憲法について論議することができるだろうか。
効果音やナレーションはない。そこにあるのはカメラを通した戦争の事実、市民の生活、人々の思い・・・。戦争の背後に、報道の裏にある事実として、この映画は問うのだ。この戦争の何をどう見たのか、そして私たちはどこへすすもうとするのかを。
【おすすめの映画評】
・綿井健陽監督 Little Birds(2005/4/23 Kayo Photo Gallery)
・映画ひとこと百言 戦争のことを考えよう『リトル・バーズ(Little Birds)』(毎日新聞2005/4/21)
・3・20イラク開戦2年 102分の告発(2005/3/18東京新聞 TOKYO発)
【映画紹介】
【ブログ内関連記事】
・23日から新宿で映画「Little Birds -イラク戦火の家族たち」(2005/4/22)
・13日ニュース23 市民が見た イラク戦争の2年間(2005/4/13)
・戦争報道って? あなたには小鳥たちの声が聞こえますか?(2005/3/23)
・イラク戦争が始まって2年 私は何を思ったか(2005/3/20)
| 固定リンク
「平和」カテゴリの記事
- 戦場から戻っても起きつづけていること(2010.02.05)
- 非戦を選ぶ演劇人の会、協力・出演イベントが2月25日に東京で(2010.01.24)
- 西田敏行さんのメッセージ(2010.01.23)
- 限りなき義理の愛大作戦(2010.01.17)
- 「平和な島を返してください」から14年以上もたつのに(2009.12.13)
「映画・テレビ」カテゴリの記事
- 2月14日(日)24:50NNNドキュメント「かりんの家 親と暮らせない子どもたち」(2010.02.09)
- 2月11日午後10時、NHKスペシャル「ランドラッシュ 加熱する世界の農地争奪(仮)」(2010.02.02)
- 衝撃のドラマか(2010.01.26)
- 子どもの食を取り上げた1982年、1999年のNHK特集が23日午前に再放送(2010.01.21)
- 「母をたずねて三千里」(2009.12.27)



コメント
コメントありがとうございました。
映画評、とても力強いと思いました。
戦争映画といっても、別に肩肘はって
見なきゃいけないものではないかもしれない。
でも、見たら自分が突然にイラクの現実に放置され、
そしてそこでどうやって生きていくかを考える。
ぜひ多くの人に見てもらいたいです。
投稿: genmacha | 2005.04.24 22:43
Little birdsがyahoo!movie1位になりました!!ありがとうございます^^
http://movies.yahoo.co.jp/
投稿: kayo | 2005.05.03 11:10
大阪での先行上映は、盛況でした。大勢の方がいろんな思いをかかえて集まっているのを感じるのは力強いですね。
やっと、Tamyさんの感想を理解しました。ごく普通の生活に戦争がやってくる。その恐ろしさを感じます。戦争って普通のかおをして、当たり前のようにやってくるんだ。わたしたちの平和もいつ普通に有事にすりかえられるかわかりませんね。じっと、していれば。
投稿: pianocraft | 2005.05.23 22:14