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2006.03.04

「野戦病院」から聞こえる叫びに私たちは・・・

 親が子どもを、子どもが親を、子どもが子どもを痛める。そんな事件が連日報道され、世間の関心は事件の背景を追う。しかし、残念ながら、その親のひどさや「普通の子ども度」に報道の焦点は向かい、一過性のもので終わってしまっていないか。

 虐待をめぐる事件が相次いでいるなか、育つ居場所が親の虐待、育児放棄などによって、「閉鎖」されれば、子どもは児童養護施設に入所する。報道は、また私たちの想像力はそこまでふれているだろうか。

 3月3日の東京新聞は一面と社会面で詳細に児童養護施設の実態を報じた。これほどまでに深く、そして実態に迫った記事は珍しいと思う。

◆児童養護施設パンク寸前に 虐待急増で緊急避難(東京新聞2006/3/3)

 虐待を受けた児童などの保護が急増し、東京都が児童養護施設に定員を超える受け入れを要請する事態となっていることが二日、分かった。全国の施設の入所率は定員の九割以上に達し、パンク寸前の状態。このため保護した児童の行き場がなく、頭を抱える自治体も多い。専門家は「子供を救うためには緊急避難もやむを得ないが、抜本的な対策を講じる必要がある」と指摘する。 

 児童相談所に付属し受け入れ先が決まる前に子供を一時的に預かる一時保護所の入所率は、都内で昨年六月から六カ月連続で定員(計百二十八人)を超過した。未集計だが、今年に入っても定員いっぱいの状態が続いているとみられる。

 受け入れ先の児童養護施設が今年一月に97・4%となるなど事実上満員で、空き待ちの状態が続いているためだ。

 このため都は同月、都外の一部施設を除く都立と民間計五十二の児童養護施設長あてに文書を送り、定員を超える受け入れを要請した。

 同様の要請は、二〇〇四年十二月に続いて二回目。このときは、都から新年度までの暫定受け入れの適否について打診を受けた厚生労働省が「好ましくないが施設の職員などの配置基準を下回らず、一時的な措置ならやむを得ない」と判断。都内の民間十施設は昨年三月、定員を超過した。

 児童養護施設は児童一人当たりの居室面積や、小学生以上六人に職員一人の配置などの最低基準が省令で定められており、定員超過で基準を下回ると改善勧告の対象となる。

 今回の要請について都育成支援課は「虐待を受けた子を放置できない。あくまでも暫定的な措置で、最低基準も下回らない」と説明している。

 一方で、都は慢性的な保護児童の多さに対応するため新年度から一時保護所の受け入れ定員を十六人増員し、〇八年度までに児童養護施設のグループホームを計百カ所整備する計画。里親への委託児童も〇一年度から百人以上増やすなど施設外の受け皿も拡大しているが、入所児童の増加に追い付かない状態だ。

<メモ>児童養護施設の入所状況

 厚生労働省の2004年の社会福祉施設等調査によると、児童養護施設の入所児童は計30597人(同年10月1日時点)で、定員の91・4%。1994年に増加に転じて以降、入所率は初めて9割台に達した。

 都道府県(政令指定都市、中核市分を除く)では東京の96・8%をはじめ、大阪や愛知など都市部はほぼ満員の状態。関東地方の1都6県では、埼玉の97・6%を最高に、5都県で定員の9割を超えている。

 虐待を受けた児童の入所が増えており、厚労省の調査では27・4%(03年2月時点)と、5年前より約8ポイント増加した。

【関連】『まるで野戦病院』 心に傷 子ども続々(東京新聞社会面2006/3/3)

 「まるで野戦病院のようだ」。虐待を受けて保護される児童が増え、受け入れ定員いっぱいの状態が続く児童養護施設の現場から、こんな悲鳴が上がっている。子どもの心理的なケアや虐待を重ねた親への対応、月十回以上の宿直勤務…。少人数でさまざまな対応を迫られる職員の疲労も限界に達している。 

 内臓破裂で三カ月の入院。あごを複雑骨折。東京都内のある児童養護施設に最近入所した児童二人はどちらも、親から日常的に殴られるなどの虐待を受けていた。

 施設は満員の状態。虐待を受けた児童が半数以上に上る。「何とか対応できるのは生命にかかわる緊急のケースだけ。通常保護すべき子どもを受け入れる余裕がなくなっている」と園長は言う。

 虐待で傷付いたトラウマ(心的外傷)から、問題行動を起こす児童も多い。職員に包丁を振り回す子も。傷を癒やしながらの試行錯誤が続く。体制が手薄なグループホームの宿直は月十回を超える。疲れ切って施設を去るスタッフも多い。

 「家庭で心に傷を受けた子どもが続々と送られてくる。治ったと思ったらそのベッドがすぐ埋まっていく。まるで野戦病院のようだ」

 そんな中で今年一月、都から定員超過の受け入れを依頼された。児童数が増え、抱える事情も複雑化している。なのに職員配置基準はしばらく見直されていない。

 「こんな状態で子どもたちの傷を癒やし、自立をはぐくむことができるのか」。そう言って園長はため息をついた。

 児童相談所の抱える事情も深刻化している。横浜市の中央児童相談所によると、一時保護所に保護されている児童は九十八人。二月中旬時点で定員を約17%超えた。

 施設の空きがなく、入所待ちの状態が続いているためだ。二〇〇四年度で定員を超えたのは二百四十八日。百三十八人が原則的な入所期限の二カ月を超えるなど、保護が長期化している。

 「受け皿がないので空きを待つしかない。夜間の対応もあるので保育士のアルバイトを雇い、急場をしのいでいる状態」(同相談所)

 虐待のケースなどでは親の同意なく、児童を一時保護することもある。「親から引き離して保護したのに行き場がない。事故が起きたら、との懸念が頭から離れない」と別の児相関係者は話す。

 同児相の三宅捷太(しょうた)所長は「虐待を再生産させないため、長期の支援と一時保護所からの“出口対策”が重要だ。児童相談所や児童養護施設の役割がより問われるが、福祉の現場で増えるのは予算より、負担ばかりだ」と、苦しい事情を打ち明ける。

 福祉職場、特に児童養護施設ではサービス残業が横行している。24時間の施設で子どもたちの生活を支えるなか、勤務のローテーション内で仕事は終わらない。学校や外出時のトラブルなど緊急対応も多い。大阪の社会福祉協議会が数年前に行なった調査では1ヶ月の時間外労働は72時間という実態も明らかになっている。

 子どもたちをめぐる状況は厳しくなっているにもかかわらず、職員配置は抜本的に改善されず、定員いっぱいのなかで過ごしている。

 子どもが権利や自由を主張して親がそれを保障できる家庭と、権利や自由の範囲さえ見えない児童養護施設の子どもたち。行政が権利として子どもたちに具体的に職員の配置や設備改善を保障しなければ、「大人」「社会」への不信が高まるのは当然なのではないだろうか。いま、その政策転換が求められていると思う。

 子どもたちや関係機関などの対応に追われ、心を病んで職場を去る職員も少なくない。子どもへの対応として非常勤の心理職の配置は最近ついたが、職員の増配置とともに子どもと職員の心理的ケアが待たれている。

 実態に迫った東京新聞の姿勢はすばらしい。でも、「野戦病院」と言われる施設で幼少期を過ごす子どもたち。そこから学校へ行き、また帰り、寝食を大人数とともにする、未来の担い手。「野戦病院」で何を感じているんだろう。

 保育園や学校には保護者がいて、何かが不十分であれば行政に責任を問うこともある。でも、児童養護施設では・・・。

 大人でさえ生きにくい時代。いま、そこで暮らす子どもたちと職員の叫びにしっかりと耳を傾けて、具体的な改善を政治の力に求めるときではないだろうか。

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コメント

tamyさん、お久しぶりです。
「野戦病院」読ませていただきました。なんとも「重い」記事ですね・・・。
家庭的な対応が必要だろう子どもたちに対して、この現実。

児童養護施設の窓口にあたる児童相談所でも、相談件数が増加し大変なようです。そんな状況でも何か事故でも起きようものなら、非難されるのは相談所や養護施設になってしまう・・・。
う~ん・・・。

おすぎさん、コメントありがとうございます。ブログ、毎回楽しみに読ませていただいています。

より家庭的なグループホームへという動きはすすみつつあるものの、定員いっぱい、それよりも多く受け入れろと、厳しいところへさらにしわ寄せをすることが許されていいのか。強く思います。

旅立ちの季節ですが、安心感と希望を胸に、どの子も巣立っていけるように、そう願うばかりです。

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