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2006.04.02

教科書検定、TAKUROさんのコラム削除の背景にあるものは

 私は、生まれてから小学校2年までの間と、母が再婚してまた離婚した小学校6年生から成人するまで母子家庭で育った。

 少し前の記事になるが、教科書検定でひとり親家庭などについての記述に厳しい意見がつき、修正を余儀なくされたという。

高校教科書検定:父子・母子家庭に意見相次ぐ(2006/3/30毎日新聞)

 教育図書「家庭基礎」の申請本には「自分の家族観」の項目で、ロックバンドGLAYのリーダー、TAKUROさんのコラムが掲載された。父親が亡くなり母、姉と生きてきた中、「父親がいないことを、不満に思ったりした形跡はまったくない」とのくだりがある。このコラムに対し「さまざまな家族形態を考えるページの中で、親が1人の家庭の記述が目立つ」との理由で検定意見が付いた。修正でこのコラムはなくなり、「CMの家族像」と題した父子・母子家庭には触れない内容に差し替えられた。

 私は、父親がいないことを、不満に思ったりした形跡はたくさんたくさんある。このあたりが大物と小物の違いだったりする。今は不満には思っていないけれど。

 両親がいる家庭が圧倒的ななかで、肩身の狭いマイナーな存在に対し、しっかりそのフォローをしておくということは大切なことだと思う。

 同記事には、教科書検定での母子家庭などの扱い方について、

これらの記述をした複数の現行教科書に対し、一部の国会議員が「これでは“家庭崩壊科”」と非難する動きがあり(後略)、昨年、参院議員が国会で「浮気をする権利を教えている」「祖母は家族ではないのに、ペットは家族と考える人もいるとの記述がある」と特定の教科書を非難するなど、家庭科を取り巻く状況は変化している。

 とある。

 いくつかのブログを検索したが、この議員の主張や検定変化の背景にふれるものはないようだ。この議員とは、元サンケイリビング新聞編集長の山谷えり子参議院議員。

 2004年11月16日の参議院・少子高齢社会に関する調査会でこんな質疑がされている。山谷えり子参議院議員ホームページこちらから今回のことにしぼって抜粋する。

◆山谷えり子委員

 少子化社会対策大綱、平成十六年閣議決定の中に、生命の大切さ、家庭の役割等についての理解、生命の尊厳、命の継承の大切さについての理解を深めるとあります。全く賛成でございます。しかしながら、先週もちょっと申したんですが、家庭科の教科書がもう家庭崩壊かのような記述が非常に目立つ。例えば、浮気の権利があるとか、離婚とか、シングルマザーを勧めているとか、あるいは祖母と孫を断ち切るような記述があるとか、平成八年の検定ではちょっと通らなかったようなものが直近の検定で通っております。
 これは、男女共同参画は進めなければいけませんけれども、男女共同参画基本計画ができて、女性の自己決定権の拡大が品位やバランスを欠いた形で教科書に書かれるようになってしまったのではないかというふうにも思えます。

 
◆ 政府参考人(山中伸一君)

 文部科学省の審議官の山中でございます。 
 山谷先生の今のお話でございますけれども、教科書での家庭についての記述というふうなところの趣旨でございますけれども、今の学習指導要領の基になりました教育課程審議会の答申におきまして、男女共同参画社会の推進あるいは少子高齢化等への対応を考慮して、家庭や生活の営みを人の人生とのかかわりの中で総合的にとらえる、あるいは、家庭生活を主体的に営む能力と態度を育てることを尊重するというふうな視点で高校の家庭科についての指導要領も作られているところでございます。

 そういうことを反映いたしまして、例えば高等学校の家庭科でございますけれども、人の一生と家族・家庭、あるいは子供の発達と保育、福祉、あるいは高齢者の生活と福祉、そういうふうな点について学習するということとされているところでございます。
 家庭について、その役割というものが十分に教えられていないんではないかという点でございますけれども、例えば高等学校の家庭総合の教科書では、家庭あるいは家族の機能ということで、家庭では子供を産み育てるという機能を果たしている。あるいは、家庭は子供を産み育て、社会に新たな成員を送り出すという、社会に対する役割を果たしている。あるいは、子供を産み育てるという点につきましても、家族のきずなを強めるという側面を持って、また次の世代を担う人間を育てるという側面を持っているといったような記述がなされているところでございます。

 先ほど先生幾つか御指摘ございまして、私もすべて読ませていただいたところでございますけれども、例えばシングルマザーの記述がございますけれども、これは、子育てにかかわる社会の役割という中で、今いろんな形の子育てをする形ができている。母子家庭あるいは父子家庭あるいはシングルマザーなど、様々な家庭の子供たちであっても健やかに育つことができるように、行政、企業、家族、個人が努力していかなければならないと、いろんな家庭の子供たちに対して、社会、企業、いろんなところで配慮しなければならないという記述がございまして、それが本文でございます。
 そこで、注釈といいますか、米印が付いて、そこの外の枠のところでそのシングルマザーという言葉について説明しておりまして、そこの中で、シングルマザーとはどういうふうな人のことを言うのかということについて、従来は未婚の母という言葉が使われてきた、しかし最近は、法律的に結婚せずに、子供を産み育てることを自らの意思で選び取って母親になる女性を未婚の母、シングルマザーと呼ぶようになっていると、こういうことで、注釈ということで書いておりまして、高校生にシングルマザーになることを勧めるような記述にはなっていないというふうに考えているところでございます。

 この文部科学省側の答弁に何ら疑問を感じないが、今回の検定では多様性を狭めるものに方針変更したことがうかがえる。

 調査会だけでなく、総理も出席する参議院予算委員会(2005/3/4)でも質疑がされている。これも山谷議員のホームページの活動報告のページから関連部分のみを抜粋してみる。

◆山谷えり子委員

 (前略)そしてまた、男女基本、共同参画基本計画の中にある家庭科の教科書、家庭崩壊科じゃないかと申しましたが、ちょっと紹介させていただきます。
 資料5というところでございます。これも、私がPTAの講演に行って、お父様がくださったものなんです。うちの娘がこんな本を読まされている、おかしいと言って下すったものです。
 左側のページ。次の疑問に答えてみましょう。A子さんとB夫さんは結婚して二十年、八年前から別居中、きっかけはA子さんに別の好きな人ができたから。この二人は離婚できるでしょうか。

 サッチャーが政権に就いたとき、こんな演説をいたしました。イギリスの子供たちは英語で自分のことを的確に表現できない、伝統、道徳の価値を教わっていない、浮気をする権利があると教わっている、とんでもない、教育改革しなければいけない。
 私は、浮気をする権利なんて学校で教えるわけがないでしょうと思いました。しかし今、日本で、家庭科の教科書で、このような文章があるわけでございます。
 そしてまた、右のページ、下の方でございます。例えば祖母は孫を家族と考えていても、孫は祖母を家族と考えない場合もあるだろう、犬や猫のペットを大切な家族の一員と考える人もあるというふうに書いております。
 別のところでは、従来は未婚の母という言葉が使われてきた、しかし最近は、法律的に結婚せずに子供を産み育てることを自らの意思で選び取って母親になる女性を非婚の母、シングルマザーと呼ぶようになっていると。
 自らの意思で選び取るシングルマザーというのをあたかもお勧めするかのように、その差別とかそういう問題ではなくて、お勧めするかのように書いていると、これは問題ではないかと思いますが、このような家庭科の教科書、御存じでしたでしょうか、小泉総理。

◆小泉純一郎総理大臣

 知りませんでした。初めてこれ見ました。こういう教育の在り方というものこそ中教審で議論してもらいたいですね。(後略)

 山谷議員の男女参画や家庭に関する質疑は、ホームページの2004年度活動報告の少子高齢社会に関する調査会の内容にほぼ集約されているようで、参照されたい。

 山谷議員とジャーナリスト櫻井よしこさんとの対談「教育に国家観を取り戻せ!」(2004年4月)の『「家庭科」か「家庭崩壊科」か』でも同様の主張が展開されている。

 また、「ペット」については、「お祖母さんよりペットが大切という家族崩壊の教え
家庭科教科書も危ない!」(VOICE 平成17年3月号 リンク先は山谷議員ホームページ)
で考え方を読むことができる。

 家庭を愛せ、国を愛せという政府や行政による具体化が今回の検定意見なのだと思う。父親がいないことを不満に思わなかったというコラムとしての意見を削除することでそれらを愛せることにつながるのだろうか。

 母子家庭でも父子家庭でも、また親のいない子どもたちも自分と家庭に誇りをもっていける教育とは・・・。残り少ない春休みに、家庭で考えてみる必要はないだろうか。

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【興味を持ってトラックバックを送らせていただいた記事】

家庭、家族とは(八国山だより)

想像させない教科書など要らない(Mandarin Orange Fields Forever...)

高校教科書検定にかんする記事(Internet Zone::Movable TypeでBlog生活)

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ペットは家族ではない?(メルモパパ日記)

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コメント

TBありがとうございます。

"A子さんとB夫さんは結婚して二十年、八年前から別居中、きっかけはA子さんに別の好きな人ができたから。この二人は離婚できるでしょうか。 "

前後の文脈がないとこれだけでは「浮気のすすめ」にどうしてつながるのか判断できませんねぇ。

旦那がDV夫だったのかも知れないし、あるいは旦那が一方的にセックスを拒否してA子を満足させてあげていなかったせいかもしれないし、もうそうだとすれば別の人間を好きになったとしてもやむを得ないでしょう。

山谷センセイはそうした苦労もなくおすごしなのでそういう人たちの苦しみを想像する力がなく、すぐ短絡的に「浮気」と考えるんでしょうかえん。

TBありがとうございます。

「家庭を愛せ、国を愛せという政府や行政による具体化が今回の検定意見なのだと思う。」という部分、本当にその通りだと思います。そして愛すべき家庭の形も国の形も、国家が主体的に決めて行くと。ますます息苦しい社会になっていきそうです。

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