働いても豊かになれない「構造改革」とは何なのか
悲しいなんて言ってられない。今日7月23日のNHKスペシャル『ワーキングプア ~働いても働いても豊かになれない~』を観た。
丁寧な取材にもとづいた内容だった。番組の展開と私の感想を記しておきたい。
「格差社会」の厳しい現実と向き合っている人々の生活の姿に直面し、もう政治を変えないとと痛切に感じた。
警備や工場労働など20以上の短期の仕事に従事してきた34歳の青年はホームレスとなり、面接で合格した仕事も住所に実態がないことがわかり、契約が破棄されてしまう。より専門的な仕事を覚えていきたかったというが、単純作業と短期収入の現実のなかでそれさえかなわなかった。洗車の仕事でなんとかがんばるものの、手取りは10万円ほど。2ヶ月たっても住居をかりることさえできていない。
東北の10人家族の農家も農業では赤字で、それ以外の出稼ぎや家族の仕事でなんとか生活しているものの、離村が続く集落で厳しい生活を余儀なくされている。20代の子ども仕事が不安定になっていることが拍車をかけている。
秋田の仕立て職人の74歳の男性はアルツハイマーになって9年の入院する妻を抱えつつ、仕事の激減に直面し、100円のイカの缶詰と3パック98円の納豆をおかずに夕食をとる。経費を引いた年収は24万円あまり。引き上げとなる介護保険料と税金が払えないと役所に出向く。貧乏人は早く死ねということか、という問いは痛いほど重く、さらに厳しい状況になれば生活保護に頼らざるを得ないと言うものの、給付を受けるには妻の葬儀費用として手をつけていない100万円の貯金を切り崩さなければならない。
このような状況に3人の識者がコメントを寄せていた。
経済評論家の内橋克人氏は、仕事に就いても厳しい生活を余儀なくされるというのは深刻な構造問題だと指摘した。国際競争力をいう企業の責任がそれでいいのか、政治の責任ではないのかと批判した。
放送大学教授の宮本みち子氏は、100万円の葬儀費用を持っていると生活保護を受けられないという状況を変えるべきとし、さらに30歳をこえて先の見えない単純労働のなかで人間性が崩壊していくと、格差構造に懸念を示した。
関西学院大学の村尾信尚氏は、救済制度を認めながらも、厳しい状況を「すぐ救え」と言って儲けている層を攻撃するのではなく、全体を考えるべきと主張した。
格差社会の拡大は、次世代に大きな影をおとしている。
3つのガソリンスタンドのアルバイトを掛け持ちして働く50歳の男性は2人の育ち盛りの子どもを抱えている。10年前は年収600万円台。妻を病気で亡くし、仕事をリストラで失業。年収200万円台は週に4日は「割のいい」深夜労働で稼ぐ。朝食は小中学の子どもたちが父の「朝ごはんは必ず食べるように」と言い聞かせを守り、つくって食べる。私大卒の父親は子どもをせめて大学にと思うものの、さらに長男も進学を希望するが、「現実」をつきつけられている。4つ目のアルバイト先を考えているという父親の背中に子どもたちは何を感じるのだろうか。
児童養護施設では子どもたちに親の経済状況の厳しさが顕著にあらわれているとしていた。さらに、親の経済状況によって子ども時代からアルバイトを余儀なくされ、その後もアルバイト生活を続け、古本を集める状況になった青年の生活も・・・。
宮本氏は、社会のなかで沈殿してしまう状況があり、子どもがそれを抱えて育つことが継承されないしくみをつくる必要があるとした。
村尾氏は、所得の格差が教育の格差に結びついてはいけないとし、公立学校の果たすべき役割と税金を投入した奨学金制度の充実を求めた。ただ、トライする資格を奪ってはいけないが、トライして失敗した責任もすべて政府にあると求めるのは間違いだともした。
内橋氏は、このままでは人間労働の再生産がとぎれてしまうと批判し、すぐれた労働力を持ち得ない社会になり、若者の可能性を奪うことが許されていいのかと主張し、社会の繁栄などないと警鐘を鳴らした。
「改革には痛みが伴う」と副作用が自ら宣伝されたにもかかわらず、劇場型の高い人気に支えられてきた小泉「構造改革」。すべての原因がそこにあるとまでは言わないが、「官から民へ」という仮面をかぶった「公的責任から自己責任へ」、福祉施策の切り下げと負担増・・・。特に地方と低所得の高齢者と青年層のくらしは確実に悪化した。それがこの5年間ではなかったか。
この政治を支えた政府・与党の責任だけでなく、それに対する野党の政策提示、さらに劇場を支えてしまった1億もの有権者、それぞれの責任が現実と未来にむけて問われていないか。
※見逃した方にはぜひ再放送をみてもらいたい。7月25日の夜遅く、日付変わって26日の午前0時から再放送される。
◆【再放送】NHKスペシャル『ワーキングプア ~働いても働いても豊かになれない~』
7月25日(火)深夜【水曜午前】0時~1時14分
« 今日23日夜9時からNHKスペシャル「ワーキングプア・・・」 | トップページ | NHK「夏の特集番組」、私が観たいのは »
「映画・テレビ」カテゴリの記事
- 「女子アナという職業はない、アナウンサーという職業があるだけ」という言葉と過去を踏まえてジェンダー平等を考えあいたい(2022.07.03)
- もし自分の職場でハラスメントが起きたら… 映画「ある職場」(2022.04.23)
- わすれない~原発と牛飼い それから~(2013.02.24)
- キ・ボ・ウ~全村避難 福島県飯舘村二年の記録~(2013.02.10)
- 福島の女子高生の叫び、農家の今 2つのドキュメンタリー(2013.02.01)
「政治」カテゴリの記事
- 若者が9条改憲に肯定的との先入観は誤り(2014.01.13)
- 政治に社会に組織に求められるプロセスの公開(2013.01.13)
- 子どもの権利を守るため、人にやさしい都政をつくる宇都宮けんじさんで~猪瀬さんでは保育施策は大・大・大ピンチ~(2012.11.28)
- 湯浅誠さん、都知事選に不出馬(2012.11.06)
- <声明>私たちは新しい都政に何を求めるか(2012.11.06)
コメント
トラックバック
この記事へのトラックバック一覧です: 働いても豊かになれない「構造改革」とは何なのか:
» ワーキング・プアに思うこと [MLM・ネットビジネス 情報便]
ワーキング・プア(working poor)って言葉を昨日初めて知りました。
仕事はしているのに貧しいって意味です。NHKの番組で知りました。
※朝から晩まで一生懸命に農業に励んでも年間の利益が数十万円・・・
※学歴がないために定職に就けないまま30歳を超えて、...... [続きを読む]
» ワーキングプア ~働いても働いても豊かになれない~ [とくらBlog]
こんなのおかしい、こんな社会はおかしい。と、とむ丸さんが書かれています。私も昨日のNHKスペシャル『ワーキングプア ~働いても働いても豊かになれない~』 をみて、まったく同じ気持ちになりました。そして、とむ丸さんと同じく、胸が痛くなって、辛くなりました。内橋克人さんは、「何もしない政府」と表現されました。
はじめの一歩さんが紹介してくださっていましたが、内容はとむ丸さんが報告してくださっています。北九州の国保の話と言い、これが日本でしょうか?いざなぎ景気以来の好景気の日本の姿でしょうか?朝のN... [続きを読む]
» 猿でもわかる中東情勢(2) [BLOG版「ヘンリー・オーツの独り言」]
1.ガザ地区で起こっていること
イスラエルにとってアメリカとは会社で言えば大株主のような存在だろう。そうだとすればイスラエルとアメリカはほとんど一心同体と言えると思う。「アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対す... [続きを読む]
» 働く貧困層(ワーキングプア) [島内日記]
NHKスペシャルのワーキングプアを遅ればせながら見ることが出来ました。 http://www.nhk.or.jp/special/onair/060723.html 強烈ですね。就労しているのに生活保護水準以下の生活しか出来ない世帯が400万世帯。 まじめに働いても働いても報われない社会ってあるのか? 日... [続きを読む]
» NHKスペシャル「ワーキングプア~働いても・・・」第2弾が12月放送 [tamyレポート]
7月23日に放送されたNHKスペシャル「ワーキングプア ~働いても働いても豊かに [続きを読む]
» 12月10日、NHKスペシャル「ワーキングプアⅡ 努力が報われる社会ですか」 [tamyレポート]
7月23日に放送されたNHKスペシャル「ワーキングプア ~働いても働いても豊か [続きを読む]
« 今日23日夜9時からNHKスペシャル「ワーキングプア・・・」 | トップページ | NHK「夏の特集番組」、私が観たいのは »
おすぎです。
ちょっとごぶさたしてしまいました。
7/23のNHKスペシャルを観なければと思いつつ、うっかり・・・。最後の10分しか見られませんでした。
が、tamyさんのこの記事で再放送があることを知り、ビデオ予約をしました。
ありがとうございました。
やっぱ、NHKですよね。もちろん受信料払ってますよ。
投稿: おすぎ | 2006.07.25 22:31
この2日くらい、あるコミックの動きのことでふだんの数倍のアクセスをいただいていまして、硬い姿勢をみせようと思ったかどうか、肩に力が入りまくったかどうかわかりませんが、NHKの話題ばかり書いてます。
さっき再放送の後半をみましたが、取材の丁寧さ、生活のとらえかたはさすがと思いました。
この記事に関連したアクセスも多数いただいていて、反響に驚きと手ごたえを感じています。
私なりに知り合いにも番組の再放送を伝えましたが、多くの方がみていてくれたらいいなぁと思っています。
地方出身で、ひとり親世帯、きちんと就職できるかも微妙だったという私。スレスレだったという実感もあります。
投稿: tamy | 2006.07.26 01:37