病床に伏す3日前のオシムの言葉 映画「サラエボの花」に寄せて
11月16日未明、サッカー日本代表のイビチャ・オシム監督が脳梗塞で倒れた。
その後、意識が戻らないまま治療が続けられ、28日、日本サッカー協会の関係者によれば、意識が回復したという。
後任には岡田武史監督の就任も決まった。
オシム氏はオシム語録(日刊スポーツサイト内)とよばれる独特の言葉を発し続けてきたことでも知られる。
そのオシム監督が病床に伏す3日前の11月13日、強い思い入れのオシムの言葉が託されていた。
12月1日から2月上旬まで東京・岩波ホールで公開される映画「サラエボの花」(公式ホームページ 岩波ホール以外の劇場情報も)に、「オシム監督からのメッセージ」が掲載されている。
映画“グルバヴィッツァ”(邦題“サラエヴォの花”)は、出来るだけ多くの方に観て頂きたい映画だ。この映画は、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ全域、首都サラエヴォ、そしてサラエヴォの一角、グルバヴィッツァで20世紀、人類として恥じるべき、また運命的な悲劇が繰り広げられた物語を語るなかで、人類は二度と決してこのような悲劇をいっときも、如何なる場所においても繰り返してはならないというメッセージを発している。グルヴァヴィッァは、20世紀、人類の良心モラルがかき消され、憎悪心にあやつられた武装兵士たちによって計画的に組織された民間へのレイプ行為が繰り広げられたことで、この紛争の一大悲劇の舞台となり、世界史上においても類なく稀な場所となってしまった。
ベルリン映画祭で最高賞を受賞したこの映画は、自活しているシングルマザーのエスマと娘、サラの生活を通し、母親エスマの娘サラに対する2つの心の葛藤:キャンプで武装兵士によって犯され、生まれた自分の娘に対する測り知れない愛、一方レイプした武装兵士たちを憎しみ、留まることを知らない恐怖心、トラウマに駆られている自分自身を描いている。我々、グルバヴィッツァの住人は、かつてサラエヴォのこの地区が、すべての者がともに共存し、生活を営み、サッカーをし、音楽を奏で、愛を語らえる象徴的な場所であったことを決して忘れない。我々はいまだに、そのような場所で紛争という悲劇が起きたことによって、殺戮や武装兵士による集団レイプ、諸々の憎悪に満ちた行為が繰り広げられたことを信じがたいと同時に、この様な事実を決して忘れ去ってはならない。グルバヴィッツァはいつの時代でも、慈愛深い人、スポーツ選手、インテリといった偉大な人々を生み出して来たが、他の場所からやってきた野蛮な悪人たちによって汚され、服従されようとされてしまった。しかし、この先もグルバヴィッツァの精神は生き続けるだろう。グルバヴィッツァとそこに生き続ける精神はそう生易しくかき消されることはない。
イヴィッツア・オシム
(サッカー日本代表監督)
2007年11月13日 東京にて
※ このメッセージはお倒れになる前、11月13日に頂戴したものです。
オシム監督のご回復を心からお祈りしております。
このメッセージは11月27日付の日刊スポーツでも大きく報道された。
また、朝日新聞「天声人語」は11月26日付でこの言葉にふれた。
サッカー日本代表のオシム監督(66)は、祖国ユーゴスラビアの解体や、ボスニア内戦といった辛酸をなめてきた。それゆえだろうか。口をつく言葉は奥が深い。民族の悲劇が、名将の人生に、深々とした陰影を刻んでいるように見える▼動じない精神力と、異文化への広い心が持ち味である。それを戦争体験から学んだのかと聞かれ、「(影響は)受けていないと言った方がいい」と答えたそうだ。「そういうものから学べたとするのなら、それが必要なものになってしまう。そういう戦争が…」(木村元彦『オシムの言葉』)▼内戦の死者は20万を数え、サラエボの街は破壊された。街の一角に、監督が生まれ育った地区がある。そこで起きた悲劇を描く映画『サラエボの花』が、近く東京の岩波ホールで上映される。内戦下の組織的レイプを見据えて、内容はずしりと重い▼この映画に、脳梗塞(こうそく)で倒れる直前のオシム氏が文章を寄せている。愛してやまない故郷を、「すべての者が共存し、サッカーをし、音楽を奏で、愛を語らえる場所だった」と誇らしげに思い起こしている▼その故郷を、「人類のモラルと良心がかき消された、世界史上に類のない場所になってしまった」と言い切るのは、辛(つら)かっただろう。燃えるような郷愁と、戦争への憎悪が渦を巻く、切ない一文である▼オシム氏の容体は予断を許さないと聞く。現役時代の氏は、ハンカチ一枚の隙間(すきま)があれば、3人に囲まれても突破したそうだ。危機を突破して、新たな言葉を聞かせてくれるよう願う。
【2007/11/26朝日新聞天声人語】
今週末から映画が公開される。その映画公開を前に意識も回復した。
この映画に対するオシムの言葉。
その言葉が発せられた映画を観て、私がどんな言葉を持つか、関心は高まる。
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