政治の貧困 アイディアが言葉が響いてこない
政治のリーダーシップが完全に崩れていると思う。
何をしたいのか、その考えが見えてこない。
アイディアと言葉に、希望を感じない。
政治の貧困とも言っていいのではないか。
政治評論界で一定の役割を果たしてきた岩見隆夫さんの下記コラムのエピソードを読んで、あらためてそう感じた。
◇近聞遠見:「教員の給料、3割上げろ」=岩見隆夫
(2011/2/5毎日新聞)
http://mainichi.jp/select/seiji/iwami/news/20110205ddm002070002000c.html
前々回、<「戦時のリーダー」を考える>の題で、田中角栄元首相の発想力に触れ、田中が後藤田正晴官房副長官に、
「小学校の教師の給料を10倍にする案をすぐに作れ」
と指示したエピソードを紹介したところ、相沢英之元経企庁長官(現弁護士・91歳)から手紙をいただいた。文面には、
<当時、私は(大蔵省の)主計局長で、田中さんからご下命があったのは、10倍ではなく3割増にしてくれとのことでした>
とある。首相に就任した72年ごろだが、田中は相沢を呼んで、
「学校教育で一番大切なのは義務教育だよ。小中学校の教育をしっかりやればいいのだ。それにはいい先生を集めなければならない。そのためには月給を高くしなければならない。
一般公務員よりも先生の給料を3割高くしろ」
と指示した。その考えに相沢は反対ではなかったが、
「一挙に3割というのは、いかにも大きすぎます。最初の年に1割、次の年に1割、という具合で、3年で3割上げましょう」
と3年計画を提案、話がついた。初年度はさっそく1割増にしたが、翌年、相沢が大蔵事務次官を辞めると中断されたという。
後藤田も、「情と理」という回顧録(講談社・98年刊)のなかで、田中に突然呼ばれ、次のやりとりをしたと明かしている。
「後藤田君、このごろの学校教員の資質が悪いよ。少しいい人が来るようにしてくれ」
「どうするんですか」
「待遇をよくしてやらなければ来ないよ」
「大学から全部やるんですか」
「大学はどうでもいい。小学校と中学校、義務教育だけでいいよ」
「それならやりましょう」
「ほかの役人より5割上げろ」
「いくら何でも、それは無理です」
「どれくらいならいいか」
「せいぜい3割ですな」
「ああ、よかろう」
と話が早かった。推測するに、後藤田、相沢の順で、田中は教員の待遇改善策を詰めていったのだろう。
なぜ後藤田の口から「10倍……」発言が出たのか、いまでは確かめるすべがないが、田中なら、
「思い切り上げろ」
というのをそんな表現でハッパをかけそうな気もする。
とにかく田中は教育問題に熱心だった。指示を連発した。相沢によると、筑波学園都市をつくった時、最初はだれも行きたがらない。自然環境は抜群だが、都会の楽しみが少なく、敬遠されたのだ。当時、首相の田中は、
「相沢君、公務員宿舎を1部屋余計につくってやれ。おやじが座れるような書斎を一つつけてやるんだ」
と注文したそうだ。相沢は、
<なかなかそういう発想は出てこないのだが、かゆい所に手が届くのが、田中流であった。田中氏の発想力は、単なる思いつきではなく、人々の心の中まで見透かしているような政策を考え出す凄(すご)さを持っていた>(著書「一日生涯-角さんと酌み交わした男の真実」ぶんか社・00年刊)
と書いている。
似たテーマで、子ども手当問題がある。国会論戦を聞いていても、政策意図があいまいで、胸に響いてくるものがない。
角栄流の、人々の心の中を見透かす情のこまやかな政策発想が、いまの政治、特にリーダー側に乏しくなっているのではないか。政治嫌いの理由の一つはそこにある。(敬称略)=毎週土曜日掲載
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岩見隆夫ホームページ http://mainichi.jp/select/seiji/iwami/
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