シワをもっと、汗をかいて
◇しあわせのトンボ:シワと汗の昭和=近藤勝重
毎日新聞 2011年11月25日 東京夕刊
http://mainichi.jp/select/opinion/kondo/news/20111125dde012070069000c.html
松本清張、向田邦子とくると、昭和である。このお二人それぞれが昭和の社会や家族を描いた作品に加え、戦後の代表的な日本映画をリメークしたテレビドラマを最近よく見かける。
いずれも力の入ったドラマなのは出演者の顔ぶれを見てもわかるのだが、昭和にしては何だか……と違和感を覚える作品もないではない。
そんな感想を映画通のある中年女性に話してみたところ、こんな言葉が返ってきた。「そうよ。主人公ら男女の顔が小さいと、今の子って感じのシーンになってしまうよね。昭和の顔は私ぐらいないと」
なるほど、とうなずいて、ぼくも言った。「小顔もそうだけど、顔のシワが少ないのも気になるなあ。ふっくらした顔より、シワのあるほうが役柄にふさわしいのに、と思ったりしてね」
当節、ドラマに出演のタレントや俳優が恐れるのは、地デジになって顔がはっきり映ることだそうだ。それで口の周りに美容成分を注入したり、マッサージでシワ取りに励む芸能人が増えているとも聞くがどうなんだろう。
と書くと、何だか主人公らの顔そのものにこだわっているようだが、単にそういうことではない。昭和は時代そのものがシワ深かった、と言いたいのだ。戦前戦後の節目でシワはひときわ深くなり、戦後は戦後で平たんではないこの国の道筋に期待と不安をないまぜにして、昭和はさらに幾筋ものシワを刻んだ。少々ダジャレめくが、戦後の日本は「シワと汗」でもたらされる「シワ汗=しあわせ」を高成長の坂の向こうに見ながら、みんな頑張り抜いたのである。
戦後、映画はしだいにテレビに押されて斜陽化したが、それでもビッグスターがスクリーンを背負い、客を呼び込んだ。なかんずく昭和が終わるまでの10年余は、高倉健さんの活躍が際立っていた。
思いつくままその間の健さん主演の映画を挙げると、「幸福の黄色いハンカチ」「遥かなる山の呼び声」「駅 STATION」「海峡」「南極物語」「夜叉」……と十数本にのぼる。
40代半ばから50代後半、男盛りの健さんは雪の夕張から氷の南極まで駆け抜けて、まさに全盛期であった。シワのみならず、時に映る手のシミも、ぼくには印象深く残っている。
昭和のリメーク版ドラマを見るつど、日本映画界最後のカリスマが目の前にすっと現れてくる。(専門編集委員)
***
シワと汗、においとアク、どんどんなくなっているように思う。
そしてあらためて、シワがあり、汗もある、このコラムの深さを想うと、これも昭和的なのかもしれない。
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