読書をしない残念さが「読書の効用」で浮き彫りに
読書、してますか?
私は20代の頃は、新聞を毎日読んでいればそれでいいと確信を持っていて、新聞を含めて「読書」だという考えもあるようですが、書籍に限定すれば、ほとんどしていませんでした。
数年前、読書をするために本を買うということは「問題意識を手放さないこと」であり、「1か月に1万円分以上の自分への投資」をすることを、ある研究者の講演で勧められ、それからは読書観が変わり、ずっと続けています。
私は仕事柄、福祉関係者の書いたレポートを読むことが多くあります。人にかかわる仕事をしている人たちの一つひとつのエピソードは興味深いのですが、その描き方を含めた作文としては残念なものが少なくありません。自身が素晴らしい読み物に出会っていないからでしょう。
本を読まない理由を聞くと、「時間がない」「お金がない」「おもしろさを感じない」などの答えが返ってきます。文化で自分を高め、まわりと刺激し合うための工夫や投資がされていないと私は理解しています。
読書をしないことを責めても何も変わらないでしょう。3年前、サッカー日本代表の長谷部誠さんの『心を整える。』がベストセラーとなり、大切にしている読書を「自分の考えを進化させてくれる」とし、反響が広がりました。読書にどんな効用があるのかを深くみつめてみます。
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平成21年度文部科学省委託事業
「学力調査を活用した専門的な課題分析に関する調査研究」
「学校図書館活用ハンドブック」学力向上のための読書活動
http://www.j-sla.or.jp/pdfs/material/gakuryoku_kojo.pdfから「読書の効用」部分を抜粋してみる。
「読書の効用」
読書は新たな言葉、新たな知識、新たな情報を与えてくれる。今まで知らなかった言葉に出会うことができる。ここで大切なのは新しい言葉に出会ったとき言葉の意味を調べて考えなければならない。身近な辞書、あるいは高度な内容であれば百科事典を使って意味を確認する必要がある。出会った言葉の意味を辞書や百科事典で確認する作業をくりかえして言葉を獲得すると、読書という作業をとおして、言葉と言葉のつながり、結びつきを考えるようになる。野矢茂樹著『論理トレーニング』(産業図書,1997)では、言葉と言葉のつながり、あるいは結びつきを「論理」と呼んでいる。言葉は互いに関連づけられ、より大きなまとまりを成し、ばらばらの断片から有機的な全体へと生命を与えられるのである。それゆえ、「論理的になる」とは、この関連性に敏感になり、言葉を大きなまとまりで見通す力を身につけることにほかならない。(同書, .)論理的というと難しく聞こえるかもしれない。あるいは、最近「論理力」が頻繁に使われているので、「論理」の意味を深く考えないで理解されているかもしれないが、野矢氏によると、論理的とは言葉と言葉のつながり、意味と意味との結びつきを考えることである。読書によって、言葉と言葉のつながりを、文章を書いた人の考えのつながり、結びつきを、「論理的に」理解するようになる。
●ミークの読書論
教師であり、児童書の批評家である英国のマーガレット・ミーク氏の著書『読む力を育てる:マーガレット・ミークの読書教育論』(こだま・ともこ訳.柏書房,2003)は子どもの読書について示唆に富む論点を提供してくれる。ミーク氏は、現代社会のしくみが複雑化して、日常生活のあらゆる場面で文字を読むこと(リテラシー)が要求されることを指摘して、「読むことは自分の体験や学習に直接結びつくもの、そして将来の自分に必ず役に立つもの」(同書)としている。
ミーク氏は、良き読者が「実用的な知識を得」るだけでなく、「幅広く奥深い人間の経験を読み取ることができる」と指摘して、「人は本を読むことによって、精神の世界に住むことができる」(同書)とも述べている。「読書は想像力を高める」といわれる。文字の連なりを見ただけでは場面の光景は思い浮かばない。想像力を導くためには、言葉の意味と読み手の経験した光景を結びびつける必要がある。想像力を高めるときも、言葉と経験、光景を結びつける論理力が関わっていると言える。●人とのつながりを生む読書
作家の平野啓一郎氏は『本の読み方:スロー・リーディングの実践』(PHP 研究所,2006)で、遅く読みながら質を高める読書の手法を紹介しているが、「読書は、コミュニケーションの準備である」(同書)と述べている。読書をとおして、作者と読者の対話があり、読者と読者、あるいは未だ読んでいない者との会話へとつながる。読書によって、作者の言葉、考えを借りながら、自分の思いを他の人へ伝える準備ができると平野氏は述べている。●言葉と言葉、想いと想い、人と人を結ぶ読書
読書によって読み手の中では言葉と言葉、事象と事象、意味と意味を結ぶ論理的理解を作りだす。読書は作者と読者の間で対話を生み、想いと想いを交換することができる。さらに著書を読んだ者が互いに感想を伝え合い、また読んでいない者にも紹介する機会を作る。読書はさまざまな意味でつながりと結びつきをつくる。***
このように、読書は、言葉と人をつなぐ役割と意義を持っています。
数年前、仕事でつながりのある人が「その人の語彙や読み取る力は、メールを2、3度やりとりしたらわかってしまう」とこぼしていました。私も同感です。
最近はSNS(私もやっていますが)で、とにかく短くその場その場で伝えることが重宝される一方で、深く考えて言葉を紡ぐことがおろそかになっていないでしょうか。
私は周囲にも直接本をすすめますし、SNSでも本を紹介しています。
同時に、自分の言葉や関心を掘り下げる効用を持つ読書をしない人を専門職とするのは、疑問を持っています。それが福祉や保育といったコミュニケーション労働であれば、なおさらでしょう。
また、本の読み聞かせを仕事上の日課としながら、言葉をつづる連絡ノートを毎日書きながら、自らはまったく読書をしないという保育士を、子どもや保護者はどうして信頼できるでしょうか。どこで言葉の力を磨くのでしょう。比較的若い福祉関係の職員とかかわりを持ってきましたが、吸収力のある若い時に本を読む読まないの違いで、大きな差が出ることは否めません。
尊敬する先輩が引退する前に、「話が整理できない人、面白くない人は読書をしていない」と言っていましたが、実際にその傾向は強いと私も感じています。それは上記の「読書の効用」の力が発揮されないからでしょう。
書店に立ち寄ると、多くの本に出会えます。時間のない人でも最近はインターネットで購入することもできます。1週間や1か月に1冊千数百円・2時間を費やすことはできないのでしょうか。
私は人に変化を求める労働組合に携わっています。自分の言葉を磨かない、言葉のつながりを広げない立ち位置ではできないし、自ら変化する読書をせずに変化を求めることがどれだけの説得力を持つだろうかと危機感を持っています。
文部科学省の審議会(1999年 文化審議会国語分科会読書活動等小委員会)では、読書の重要性を、
『読書は人類が獲得した文化である。読書により我々は,楽しく,知識が付き,ものを考えることができる。また,あらゆる分野が用意され,簡単に享受でき,しかも安いという特色を有する。読書習慣を身に付けることは,国語力を向上させるばかりでなく,一生の財産として生きる力ともなり,楽しみの基ともなるものである。読書の習慣を若いうちに身に付けることが大切である。
国語力との関係でも,既に,本年1月にまとめられた「審議経過の概要」にも示されているように,読書は,国語力を形成している「考える力」,「感じる力」,「想像する力」,「表す力」,「国語の知識等」のいずれにもかかわり,これらの力を育てる上で中核となるものである。また,すべての活動の基盤である「教養・価値観・感性」などを生涯を通じて身に付けていくために不可欠,というより,読書なしに教養等を形成していくことはあり得ない』
とまとめています。
それでも読書をしませんか。2013年、心に響いた本はありましたか。
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