ドラマ『逃げ恥』と『ダンダリン』のセリフが保育園の職員に何を問いかけているか~「やりがい搾取」を許さずに自分たちの手でよりよいものに変えていくという選択肢とは
昨年10月から放送されたドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』。DVDが3月下旬に発売されたことで、ふたたび話題となっている。
このドラマは、「恋ダンス」だけでなく社会を風刺する展開で人気となったが、私は特に第10話での「やりがい搾取」の反響に注目した。
商店主たちの集まりに参加することになった主人公・森山みくりは、活性化にむけたイベントを提案すると、店主たちはそのアイディアに賛同しつつ無償の手伝いを要求する。
みくりは、彼らを引きつけた上で、こう力説した。
「いいですか、みなさん。人の善意につけこんで、労働力をタダで使おうとする。それは搾取です。例えば、友達だから、勉強になるから、これもあなたもためだからなどと言って正当な賃金を払わない。やりがい搾取を見過ごしてはいけません。断固として反対します」
やりがい搾取とは、
「金銭による報酬の代わりに“やりがい”という報酬を強く意識させられることで、賃金抑制が常態化したり、無償の長時間労働が奨励されたりする働きすぎの組織風土に取り込まれ、自覚のないまま労働を搾取されている状態」
https://jinjibu.jp/keyword/detl/816/
をいう。
「金銭による報酬の代わりに“やりがい”という報酬を強く意識させられることで、賃金抑制が常態化したり、無償の長時間労働が奨励されたりする働きすぎの組織風土に取り込まれ、自覚のないまま労働を搾取されている状態」
https://jinjibu.jp/keyword/detl/816/
をいう。
このような働かせられ方の広がりに対し、ドラマは警鐘を鳴らし、ツイッターなどでも反響が大きく広がった。
「やりがい」「成長」といった言葉をえさにして、賃金の抑制や長時間労働を強いる。いわゆる「ブラック企業」だけでなく、いま保育士不足が社会問題になっている保育園も同様の傾向がある。業界としてこのような状態に置かれていると言っていい。
最低の基準として国が示している職員数と保障している人件費財源が少ないため、賃金は低く、休憩・休暇がとりづらい。持ち帰り残業なども横行している。構造として、保育園の職員に「やりがい搾取」を強いているのは、政治だということも言える。
この春、姫路市の「こども園」をめぐるニュースが連日報道されているが、15分前出勤をしないと罰金、残業代はナシ、退職をさせないなど、裏契約・違法労働も明らかになり、労働基準監督署も調査に入った。
ここまでひどくはないとしても、政治による「やりがい搾取」とあわせて、経営者が日常的に支配・監視しやすい環境のもとで、閉鎖的で違法なワンマン運営がさらに園の職員たちを追いつめているケースも少なくない。ワンマン運営とまでは言えなくても、労働法令を守ることができていないことに問題意識を持たない経営者もいる。
保育園の職員に対して、森山みくりが上記のセリフをこのように少し変えて問いかけたとしたら、どうだろうか。
「いいですか、みなさん。人の善意につけこんで、労働力をタダで使おうとする。それは搾取です。例えば、子どもたちのためだから、みんなやってるから、これもあなたもためだからなどと言って正当な賃金を払わない。やりがい搾取を見過ごしてはいけません。断固として反対します」
2013年10月から放送された日本テレビ『ダンダリン 労働基準監督官』は、各回で日本の象徴的な労働問題を取り上げ、竹内結子さん演じる労働基準監督官・段田凛が問題の本質と法的根拠を示し、解決していった。
第8話では、実質的に経営者が強制している研修について、自由参加とは言えず、業務・労働として賃金を支払う義務があることを明らかにした(脚本で参考にしたのは居酒屋「和民」のケースと思われる)。
問題を解決したうえで、監督官・段田凛は、こう言った。
「会社が嫌なら辞めればいいじゃないか、よく簡単にそういうことを言う人がいます。あるいは、我慢するか会社を辞めるか、会社員にはその二通りの選択肢しかないとおっしゃる方もいます。でもそれは間違いです。本当は、3つ目の選択肢があるんです。それは、言うべきことは言い、自分たちの会社を自分たちの手でよりよいものに変えていくという選択肢です」。
続けて、
「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない」「この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない」
という労働基準法第1条も引用された。
ドラマの展開はここまでだったが、その3つ目の選択肢を実際にとっていくのに必要なのは、労働組合に集団的に入ることだ。経営者と対等な立場で協議できる権利をもとに交渉し、職場の改善を迫る。憲法や労働基準法、労働組合法などのルールと、組織が力になる。
さらに、経営者に責任を果たさせながら、保育園をめぐる構造としての「やりがい搾取」を許さない立場で、経営者とともに、保護者とともに、社会に理解を得ながら、保育園で働く職員の処遇改善を政治に対していっしょに求めていく。
「言うべきことは言い、自分たちの手でよりよいものに変えていく」という選択肢をとっていくことによって、保育士不足の改善にとどまらず、保育者たちを専門職として社会と政治が位置づけ直し、ふさわしい待遇にしていくことができないだろうか。
子どもが初めて長時間にわたって過ごす場所で向き合う専門職。プロとしてスキルを磨き合い、集団的にその力を発揮できる体制をつくっていくことが必要だ。保育園で働くみなさんには、労働組合への相談と加入をすすめたい。
≪相談先として≫
全国福祉保育労働組合
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